2021年ニュース

自動車ディーラー 「売る」以外の価値で差別化

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国内市場の縮小により、全国に約1万5000ある自動車販売店が岐路に立っている。トヨタ系では2020年から全車種の併売化が始まり、チャネル間競争が本格化。地域振興や災害支援など「売る」以外の価値で存在意義を示す必要に迫られている。

石畳の広場に半円のアーチ窓。欧州の駅舎をほうふつさせる建物で、結婚式が行われた。式の終わり、新郎新婦が自慢の愛車に乗って後にしたその場所は、地元の自動車販売店だ。

ネッツトヨタ富山本店で開かれた結婚式

 ネッツトヨタ富山(富山市)は2009年に本店をリニューアルした。店舗中央に広場を設けたユニークなデザイン。それに合わせ、店舗内のスペースや敷地を地域住民に無償で貸し出す取り組みを始めた。町内会のお祭りや小学生のフットサル大会など用途は様々。ペットの里親探しをする団体が保護犬や保護猫の譲渡会を開催したこともある。緊急事態宣言下では、地元飲食店がテークアウト商品を販売できるスペースとして駐車場を提供した。

保護犬・保護猫の譲渡会(写真上)。同店の外観(写真下)

 こうしたイベントは新車の販促目的ではなく、地域住民主体の催しだ。口コミで評判が広がり、まるで公民館のような役割を担うようになった。

 自動車販売店が地域貢献に注力するのは、生き残り競争が厳しさを増しているからだ。ネッツトヨタ富山の新車販売台数は1990年のピーク時から約2割減少したという。中古車事業の拡大などで業績は維持しているが、今後も自動車需要の減少は避けられないうえ、富山県にはトヨタ系販売会社が3社ある。「地域に必要とされる存在になることが販売店存続の生命線」(笹山泰治社長)との思いがある。

小規模販売店に淘汰の波

 100年に1度の変革期といわれる自動車産業。それはディーラーも同じだ。2000年に約600万台だった国内メーカーの新車販売台数は、20年は約460万台と2割以上落ち込んだ。サブスクリプション(定額課金)やカーシェアリングなど「所有しない」利用形態も広がっている。

 日本自動車販売協会連合会の加盟企業による販売・サービス拠点数は20年に1万5619カ所。4年で400減少した。リーマン・ショック以降、ディーラーの倒産件数は年間100件前後で高止まりしている。多いのが「サブディーラー」と呼ばれる小規模販売店。20年の倒産事例の約65%は負債額5000万円未満の小規模な事業者だった。「地方のサブディーラーを中心に人口減や高齢化などの影響を受けている」(帝国データバンク情報部の担当者)。三菱自動車系のカープラザ富山中央(富山県高岡市)が事業を停止するなど影響は大手にも広がり始めている。

市場縮小に伴いディーラーの倒産件数も高止まり
●国内新車販売台数と自動車小売業倒産件数の推移
出所:日本自動車販売協会連合会、帝国データバンク

 市場環境の変化に加え、地場資本が9割以上を占めるトヨタ系ディーラーには大きな転換点があった。20年5月からの全車種併売化だ。それまでトヨタ系販社では「トヨペット」「ネッツ」「カローラ」などのチャネルごとに扱える車種が決まっていた。車種の垣根がなくなり、同じトヨタ系販売店とも顧客の奪い合いが本格化している。

 販売店を選ぶ理由をこれまで以上に問われるようになったが、地域密着を強化していたディーラーにとっては「全車種併売は大歓迎」(ネッツトヨタ富山の笹山社長)。同社では店舗で開催されるイベントを通じて新しい顧客と出会うこともあるほか、過去に店を訪れた学生が入社するなど、成果に手応えを感じているという。

 地域密着を突き詰めた果てに「車を売らない販売店」にたどり着いたディーラーもある。滋賀トヨペット(大津市)が大津市の長等商店街で運営する「Boss 百町物語」だ。

 わずか10畳ほどの店内には車は1台もなく、お年寄りがソファに座って談笑している。車を持たない住民のため、道の駅で販売する野菜の取り次ぎも行う。散歩の途中で毎週訪れるという80代の男性は「ここへ来たら誰かいる。世間話をするのが楽しみ」と話す。

 この場所の目的は「物や車を売ることではなく、地域の人に来てもらい地域を活性化すること」(北村浩之支配人)。コロナ禍前は毎週のように落語会や地元高校生の演奏会といったイベントを開催し商店街を盛り上げてきた。

 滋賀トヨペットは64年前に創立した老舗ディーラーだ。「自分たちを育ててくれた大津へ恩返しがしたい」(山中隆太郎社長)と17年に商店街への出店を決めた。初めは「介護車を売りつけに来たんか」といぶかしがられたりもしたが、地道な声掛けによって寂れていた商店街に次第に人が戻り始めた。

 商店街主催のイベントでは、自ら県や市の補助金を申請するなど活性化にまい進した結果、北村支配人は商店街振興組合の理事長を務めるまでになった。Boss百町物語には毎月600~1000組が来店し、商店街への来客も3~4倍に増えたという。

大津市の長等商店街で営業を続ける「Boss百町物語」。店内が地元住民でいっぱいとなり、店の外に人があふれることも珍しくない(写真=今 紀之)

 「おばあちゃんがお世話になっているあのディーラーで買おう」といった評判が広がり、全車種併売が始まった20年の売り上げも大幅な減少はなかった。「これまではチャネルに守られていたが、これからは選んでもらえる存在にならなければ」(北村支配人)と意気込む。

災害時の支援拠点に

 「動かなくなった車を運んでほしい」「代車を貸してほしい」──。

 20年7月、熊本日産自動車(熊本市)には顧客からの連絡が相次いだ。熊本県を襲った豪雨により球磨川が氾濫し、浸水被害で多くの自動車が動かなくなったためだ。

豪雨で浸水被害を受けた熊本日産の人吉支店。電力復旧が遅れた地域ではEVが活躍した

 地元の有力企業から派生して創業した熊本日産は地場の付き合いが濃く、法人顧客の割合が35%を超える。そのため地域貢献にはとりわけ熱心だ。被害のない地域から車を運び入れ、水没した車を運び出す。被害が広範囲で水没車の数が想定以上に多く、保管するスペースが足りなくなったため、近隣の土地を借り上げて対応した。

 停電した場所には電気自動車(EV)「リーフ」の試乗車も貸し出した。球磨川沿いに建つ鶴之湯旅館は、電気、水道などのインフラが1カ月近く復旧しなかった。旅館を営む土山大典さんは「EVがこのように使えることも知らなかったが、本当に助かった」と話す。

 日産自動車本体もEVを活用した災害支援など地域連携活動を展開している。停電時に販売店のEVを非常用電源として活用するなどの枠組みづくりを進め、熊本日産も熊本市など3自治体と災害支援協定を結んでいた。ただ豪雨では協定の枠組みがなかった地域が被災したうえ、自らも被災した。「対応は現場の緊急判断となり難しさも感じた」(古荘雅教社長)という。

 そこで、販売店自らが主体となる防災対応にも取り組み始めた。大型台風の上陸が予想された際は、急な停電に備えて介護施設に事前にEVを貸し出した。「何かあったら熊本日産に頼ろうと思ってもらえるための仕組みづくりも広げたい」(古荘社長)。日産が国内販売台数を3割減少させた05年から18年の間でも、熊本日産は販売台数を27%伸ばしてきた。

新規顧客が3~4割増

 選ばれる存在になる。そのアプローチは地方と都心部では異なってくる。

 「商圏ではないお客様も遠くから店舗にやってくる」と話すのは、関東マツダ高田馬場店の片桐洋志店長。来客が増加したきっかけは16年、白地をベースに青色が使われた従来の店舗デザインから、黒を基調としたシックな内観にリニューアルしたことだ。

関東マツダ高田馬場店は「新世代店舗」と呼ばれる新CI店舗に生まれ変わった(写真=陶山 勉)

 店舗の設計はマツダ本体が主導する新CI(コーポレートアイデンティティー)が元になっている。マツダのデザイン本部がデザインを監修し、設計には広島出身の世界的建築家も携わった。高田馬場店では改装後、輸入車からの乗り換えユーザーを中心に、新規顧客が3~4割ほど増加した。

 マツダは新車の高付加価値路線と並行し、販売店のCI改革も進めてきた。高田馬場店ではそれまで窓ガラスに掲示していた「決算セール」などの広告を一切やめた。車が最も美しく見える展示を追求し、車両や商談ブースの位置、照明の方向なども細かく決めた。結果、商談時に商品の説得力向上につながり「過度な値引きも減少し、価格に納得して購入する方が増えた」(片桐店長)という。明治通りに並ぶ輸入車ディーラーと比べ、見劣りすると受け止められることもあったが、「人に紹介したくなった」と紹介による来客も増えた。

 もちろんハードの整備だけで業績が改善するわけではない。それでもメーカーと販売店の意思がうまくかみ合えば、まだまだ成長が可能であることを示している。

 メーカー主導の店舗改革で成功を収めた代表例が「Jeep(ジープ)」だ。14年に欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の傘下に入ったことをきっかけに16年から新CIの導入を開始。国内82店舗のほぼ全店でリニューアルが完了した。

Jeep世田谷店。展示台数を削減し、黒と木を基調としたゆとりある空間になった(写真=陶山 勉)

 効果は数字に表れている。新CI未導入の店舗では19年から20年で受注が平均5%減少したのに対し、導入済み店舗では平均12%増加した。店舗内にラウンジを設置し、充電用コンセントを備え付けるなど細かい気配りをちりばめた結果、CSI(顧客満足度指数)は18年から20年で20ポイント上昇した。

 居心地の良い店舗に生まれ変わったことで、過去に店で車を購入した「既納客」の来場回数が増え、買い替え時に販売店に下取りを持ち込む件数が急増。中古車用スペースを拡大したこともあり、認定中古車の取り扱い台数は20年に前年比3倍に増加した。中古車価格を自らコントロールできるようになり、下取り価格も上昇。短期での乗り換えや販売増につながる好循環が生まれ、販売台数は7年連続で増加している。

 輸入車ディーラーでは買収や合併などの動きも珍しくないが、代理販売契約の新規相談が持ち込まれることも。今後2年間で20程度の新拠点を開設する計画だ。

 地域やメーカーの違いによってアプローチは異なるが、独自色を出し商圏で支持される存在になることがディーラーの生き残りには欠かせない。そして、今後避けることができないもう一つのキーワードがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。

面積半分、内外装をVRで確認

 都心のど真ん中にある独アウディの「Audi City 紀尾井町」。店舗面積は平均的な店舗と比べ半分以下で整備工場はなく、展示車両も3台しかない。アフターサービスは近隣店舗に依頼するため、営業担当者と顧客のコミュニケーションが希薄になる恐れがあった。

「Audi City 紀尾井町」はVRゴーグルによるシミュレーターを導入

 そこで近隣店舗と常時接続するビデオ通話を導入。顧客が別店舗を訪れても担当営業と会話できる環境を整えた。仮想現実(VR)ゴーグルで内外装のデザインや色を3次元で見ることができる車両シミュレーターも導入した。

 アウディジャパン販売の澤智一郎マネージャーは「地価の高い都心部での持続可能な店舗を考え、リアルとデジタルの融合にたどり着いた」と話す。10年前であれば展示車両の少ない販売店はあり得ないと思われていたが、価値観の変化により、こうした次世代店舗も顧客に受け入れられているという。

 コロナ禍を機に自動車でもネット経由の販売が増えるなど、ディーラーを取り巻く環境は容易ではない。電動車やコネクテッドカーが普及すれば、アフターサービスの売り上げが減少することも予想される。ただ自動車メーカーにとってもディーラーは一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係だ。互いに手を取り知恵を絞りながら、道なき道を進んでいくしかない。

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