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アップルカーが開く未来 自動車業界大変革の序章

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自動車産業では欧州のPSAとフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が経営統合し、世界4位となる「ステランティス」が2021年1月に誕生したが、今年はもっと衝撃の大きな出来事が起こる可能性もある。

iPhoneユーザーの半数以上が「アップルカー」を購入するかも ...

昨年末の台湾からの報道では、米アップルが「プロジェクトタイタン」として長年温めてきた電気自動車(EV)「アップルカー」が9月に発売になるという。スマートフォン「iPhone」の製造委託先として知られる台湾の鴻海精密工業や、韓国の現代自動車と手を組むとの情報もある。

アップルは実は、EV開発について否定も肯定もしたことがない。2年前には撤退を検討中との報道があったが、ノーコメント。そして今回も同様である。

仮にすべてが本当だとして、アップルカーが車の形をしているか、「娯楽」「体験」を提供するソフトウエア的なものにとどまるのかは明確ではない。だが、同社がここ数年、車載用電池、電子キーなどEV向けとみられる技術をいくつも公表している点を考えれば車そのものへの参入である可能性は高い。下請けとみられる台湾企業の動きを見てもそうだ。

だとすれば、既存の自動車メーカーに与える影響は大きい可能性がある。1つは、自動車をスマホと似たビジネスに変えるきっかけになる可能性があるからだ。

「ピラミッド型」といわれるように、現在の自動車産業は開発、生産、販売を完成車メーカーが垂直統合的に進める経営モデルが一般的だ。だが、アップルが挑むのは開発が米シリコンバレー、生産はアジアとすみ分けるスマホに似た水平分業。すなわち工場や設備を持たない自動車メーカーとして、業界に多大な影響力を行使していこうとする試みだ。

工場や設備は車の性能と品質を決定する最も重要な要素、と自動車産業では昔からいわれてきた。だが、その性能がハードウエアではなくソフトウエアの側で決定づけられる傾向が強まる中、自動車メーカーが有形固定資産を膨大に抱える意味、経済合理性も揺らぎ始めている。アップル型の分業モデルが軌道に乗り「有形資産を持たざる者」に競争力が向かうのなら、日本企業に多大な試練を突きつけることになるだろう。

2つ目は、それでも自動車への参入障壁は別の観点から高いままだ、とみられる点だ。EVは部品の点数がガソリン車の3分の1ほど。燃料を燃やして動くエンジンのように、複雑で開発に時間のかかる工程は少ない。

組み立てを受託する企業も世界中に増え、ベンチャー企業には参入の機会が劇的に増加しただろうと思われがちだ。だが、莫大な投資余力を持つ巨大IT(情報技術)企業、とりわけ株式時価総額がトヨタ自動車の9倍もあるアップルが参入すれば、同社にかなう企業はベンチャーはおろか、自動車産業にもそう多くはない。

つまり、競争の構図はトヨタなど体力のある一部の既存メーカーとテスラ、アップルを軸にメインプレーヤーが絞られていき、再編淘汰が活発になるということだ。しかも、より良いソフトウエアをいかに開発するか、人材や知的財産をいかに集めるか、という点で従来とは違った資本集約型産業に変貌する可能性もあるだろう。

3つ目は、経済の構造への影響だ。自動車の市場は世界的に成熟期に入っている。それはスマホの市場を何倍にも広げたiPhoneの時とは異なる現実であり、アップルがハードウエアでの成長を目指すとすれば、それは既存の自動車メーカーから市場を奪うこと。すなわち「ゼロサムゲーム」を仕掛けることを意味する。

ただし、アップルがそうした消耗戦のために新ビジネスを構想したケースは過去にはなく、「もっと肥沃で手つかずの何か」を求めた自動車参入になるはずだ。

恐らく、それは現実世界ではなく、自動車というハードウエアから広がるサイバー空間への野心ということだろう。当初は音楽、娯楽など車内で快適に過ごせる装備、サービスが前面に出るだろうが、ゆくゆくは現実世界をインターネット上に再現するデジタルツイン(電子の双子)やブロックチェーン(分散型台帳)技術を使った走行データの売買、デジタル通貨のやり取り、決済や課金サービスに広がる。それらを通じて、アップルとユーザーがサイバー空間でそれぞれ経済活動を活発化し、共に潤う、といったビジネスモデルを繰り出してくるに違いない。

つまり、ハードウエアとしての自動車は成長が鈍り、国内総生産(GDP)など、従来の尺度で考える成長は期待しにくくなるとしても、その先の広い空間には「まだ捕捉することも難しい、新しい価値の創造や成長の機会が眠る」との確信があるはずだ。

「新たな価値」にはこんなこともありそうだ。アップルは昨年夏に取引先や顧客も含めたカーボンニュートラル(脱炭素)を2030年までに実現すると表明したが生産現場での脱炭素以外に、価値とはこれまで無縁だった「二酸化炭素を削減する行為」などをビジネスに結びつける可能性は高い。テスラも注目する排出枠取引だ。

アップルはパソコンやスマホ、クラウドサービスなど消費者とつながる事業を多数持つ。日本の自動車産業もGDP的な成長の追求に縛られず、新たな価値創造へと事業のスタイルを変化させないといけないわけである。

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