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コロナ禍のなぞ?自動車産業が早くも復活した理由とは?

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消費を低迷させ、東京五輪・パラリンピックを延期に追い込み、観光・飲食業の倒産を激増させているコロナ禍。だがすべての産業に暗雲が漂い続けているわけではない。とりわけ早くもV字回復ムードに湧いているのが自動車産業だ。

コロナ禍が急速に拡大し、世界中で工場が止まった2020年4〜6月期、トヨタの世界のグループ総販売台数は184万台と前年同期に比べ3割以上減った。なんとか黒字を確保したものの、販売面の影響だけで8000億円以上の利益が消滅。急きょ金融機関から1兆2500億円を調達し、サプライヤーも含めた「トヨタ王国」の万が一の崩落に備えたほどだった。


2020年度当初こそコロナ禍で販売を減らしたトヨタ自動車だが、足元では生産が大幅に回復している(愛知県豊田市の高岡工場)

 ところが販売台数は8月に前年の9割まで戻り、9月以降はトヨタ車で前年超え。世界2大市場の米国、中国での販売がけん引する形で、「10~12月期に前年同期比95%水準」とみていた予想を大幅に上回るペースで回復した。

 20年10月のトヨタ車の世界販売台数は前年同月比8.3%増の84万7713台。子会社のダイハツ、日野自動車も含めると92万7623台となり、いずれも過去最高の販売実績だ。足元では「ディーラーに車が足りなくて困っている」(関係者)という状況で、世界中の工場は大忙し。「市場が想定を超えるペースで持ち直している」とトヨタ中堅幹部は目を丸くする。

公的支援とカネ余りという追い風

 生産が活気づくのはトヨタだけではない。10月にはホンダ、広義のトヨタグループであるスズキやSUBARU、マツダなど日本メーカーの生産台数は軒並み、前年同月の実績を上回った。構造改革の真っ最中で生産を抑えざるを得ない日産自動車と三菱自動車を除けば、もはや絶好調と言っていい状態に近づいている。

 この状況は21年も続くのだろうか。

 結論から言えば、ある程度維持する可能性が高い。キーワードは公的支援とカネ余りだ。

 まずは公的支援。どの国においても基幹産業と位置付けられる自動車事業は、コロナ禍に伴う経済対策の対象となっている。特に今は、SDGs(持続可能な開発目標)の広がりでカーボンニュートラルの波が押し寄せている。EV(電気自動車)など新エネルギー車は多くの国で消費者の購入の手助けをする仕組みが整っている。

ただ、SDGsブームを引っ張る欧州は足元の新車販売に勢いを欠く。むしろ「公的」の主役は自動車の最大市場、中国だ。

 ここ数年、中国の大都市は深刻な渋滞や大気汚染の対策としてナンバープレートの発給制限などをしてきたが、コロナ禍を機にこれらの緩和に動いた。販売補助金も大盤振る舞いされており、盛んな公共工事を背景にトラックなど商用車の発注も相次ぐ。

 2月に前年同月比8割減となった中国国内の自動車販売は、4月にプラスへと転換した。調査会社の米アーサー・D・リトルによると5月以降は二桁増が続いており、年間を通してプラスとなる可能性もある。「今のところ状況が変わる兆しはなく、官主導の自動車好況は当面続くだろう」(アナリスト)というのが業界の一般的な見方だ。


中国などでの公的支出や金融緩和が自動車市場を底上げしている(写真:Bloomberg / Getty Images)

 次に「金余り」。こちらの主要な舞台はコロナ禍で最多の死者を出している米国だ。

 日本は2度の補正予算で計60兆円を確保しているが、米国のコロナ対策費はこれまでに3兆ドル(約312兆円)規模に上る。さらに今後、雇用対策などに9000億ドル規模を充てる案が出ており、11月の大統領選で当選を確実にしたバイデン前副大統領もこの案を支持する。

 日米に限らず、世界で繰り広げられる公的支出と金融緩和。その受け皿となっているのが米ナスダック市場やビットコインだが、だぶついたマネーはぜいたく品である車にも向かっているというわけだ。

健全な好況でないのは百も承知

 当然のことながら、専門家の中には今の状況は“健全な好況”とは言えないという指摘も多い。

 SBI証券の遠藤功治氏は「米国では誰でもお金を借りやすい環境になっている」と指摘する。査定が緩くなったことでローンの平均年数が延びているといい、「サブプライムローンの車版のようになるのでは」(関係者)と懸念する声も広がっている。また自動車産業だけ好調でも、観光業や小売業など他産業の低迷が続けばやがて車も売れなくなり、全体経済も立ち行かなくなるとの声もある。

 それでも、少なくとも21年の間は「自動車産業は比較的いい状況が続く」(アーサー・D・リトル・ジャパンの鈴木裕人パートナー)というのが多くの関係者の結論。SBI証券は21年の世界の新車販売を、20年予想から12%増の8700万台になると想定する。

 では自動車産業に身を置くプレーヤーが21年、安閑としていられるかと言えば話は別だ。

自動車業界ではここ数年、「CASE」と呼ばれる技術革新が進んできた。シェアリング(S)はコロナで一時的に止まり、膨大なコストを要する自動運転(A)は抑制気味ではあるものの、電動化(E)とコネクテッド化(C)は、中国や米国が主導する形で実用化が急拡大している。

 時価総額6000億ドルを超えた米テスラの飛躍が目立つ一方、既存メーカーは膨大なコスト負担を迫られている。クルマ開発で重要な技術分野が機械から電機、IT(情報技術)へと変容する中、チャンスを見いだそうとするIT企業や電機企業の参入も後を絶たず、競争環境も厳しくなるばかりだ。


2020年、ホンダもCASEの波に乗り遅れまいと同社初の量産型EV「ホンダe」を発売した

 とりわけ部品勢は過酷な戦いに巻き込まれつつある。

EV化で没落する部品メーカーも

 コロナ補助金の下支えもあって、EVの導入が活気づいているのは前述の通り。日本政府は30年代半ばにガソリン車の新車販売をゼロにする目標の検討を始め、東京都の小池百合子知事は30年までに都内で販売される新車をすべて電動車にすると表明した。これまではおぼろげだった「ガソリン&エンジン→電池&モーター」という流れが具現化したことを受け、トランスミッションなどエンジン周りの部品メーカーは焦燥感に駆られている。

 21年1月には、日立製作所とホンダの傘下の自動車部品メーカー4社が統合する新会社「日立Astemo(アステモ)」が発足する。「21年はさらに、これまでの業界の枠を超えたM&A(合併・買収)が進む公算が大きい」とSBI証券の遠藤氏は読む。

 とはいえ、自動車産業全体としては当面、明るい状況が持続しそうなのは事実。様々な課題が残るものの、基幹産業の好調は、日本や世界経済がコロナ禍を乗り切る上で心強い材料となるのは間違いない。

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