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決算発表から、コロナウイルスがトヨタに与える影響を読み解く

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トヨタ自動車は5月12日、2020年3月期の決算説明会で、2021年3月期の連結営業利益が前期比8割減の5000億円となる見通しを発表した。世界の新車販売は22%減の700万台を想定する。通常期なら当然の見通し公表だが、今は世界各国の工場が止まっている非常事態。豊田章男社長は「国内生産300万台の死守」「次世代技術への投資継続」などを強調し、安心感の醸成に努めた。
「車を造ることで、仕入れ先の工場が動き、地域社会が動く。多くの人の生活を取り戻す一助となる。危機的状況だからこそ、わかっている状況を正直に話し、1つの基準を示すことが必要だ。基準があることで、皆さん、何かしらの計画や準備ができる」豊田社長はオンライン記者会見でそう話した。
同じ日に20年3月期決算を発表したホンダは、21年3月期の業績予想の発表を控えた。自動車各社の世界での販売は激減し、生産調整によって工場は軒並み休止している。欧米で生産再開の兆しがあるものの、まともに動いているのは中国くらい。おそらく「様子見」というホンダのスタンスが現実的なのだろう。
見通しの発表については、トヨタの経営陣の中でも随分議論があったという。ただ、前述の理由で先行きを見せることを選び、販売台数が2割以上減っても5000億円の営業黒字を出せることを示した。その上で強調したのが、国内300万台という現在の生産体制の維持だ。
豊田氏は「守り続けてきたのは世の中が困ったときに必要なものを造ることができる技術と技能を習得した人財。人は改善の源で、ものづくりを成長、発展させる原動力だ」と話した。サプライチェーンを含めた「トヨタ経済圏」の人たちには、心強く響いたことだろう。

未来への投資は変えない覚悟

 生産体制だけではない。次世代技術への投資について、豊田氏から返答役を振られた小林耕士執行役員はこう言い切った。「止めてはいけないのは未来に対する開発費。これは普遍的であるべきだし、そのための資金を持つべきだ。我々の手元には8兆円の資金がある。20兆円のアップルと比べればまだ少ないが、スマートシティーに対する投資や試験研究費で変えるところはない」
2008年のリーマン・ショックの際には「出血を止めるため全てを止め、必要な筋肉も落としてしまった」(豊田氏)。そのことを深く反省し、無駄の排除を徹底するなどして収益体質を磨いてきたのがトヨタの歴史だ。小林氏は「損益分岐点は当時に比べて明らかに良くなっている」と胸を張った。
「100年に一度」とされる自動車産業の変革に伴い、トヨタは近年、「仲間づくり」を進めてきた。モビリティーが周囲とつながることを前提に、トヨタの事業領域はクルマから街へと拡大している。住宅事業ではパナソニック、モビリティーサービスではソフトバンクと連携。3月にはNTTと資本提携し、スマートシティー事業で協力することを発表した。
自動運転や電動化など「CASE」と呼ばれる次世代技術においては、センサーや通信技術、ソフトウエアなど多様な領域で新たなサプライチェーンが発生する。「街」となればなおさらだ。コロナ禍で多くの人が共有する「シェアリングエコノミー」には逆風が吹くが、新技術への投資に対し、トヨタが「変えない」とする基本姿勢を示す意味は小さくない。
豊田社長はこうも話した。「私たちの使命は幸せを量産すること。V字回復がもてはやされる傾向があるが、雇用やものづくりを犠牲にし、やめることで個社の業績を回復させることが評価されるのは、違うと思う」。日本経済の屋台骨である自動車産業における唯一の勝ち組。見えない見通しの提示には、「国家」を背負う覚悟が秘められているのかもしれない。

新型コロナによる2019年度のダメージは1%

トヨタの決算発表を見ると、新型コロナ禍による売上高の減少は3800億円。トヨタにおける2019年度の売り上げは29兆9300億円なので、1.2%程度の減少に留まっている。2019年度は「ほぼ」影響がなかったということ。
ちなみに同じ日に決算発表を行ったホンダは25%減、マツダは81%減と、厳しい決算発表になった。

連結営業利益見通し増減要因
トヨタ自動車2020年度の連結営業利益見通し増減要因

前述の通り、ホンダやマツダ、大半の企業が2020年度の決算予想を見送る中、トヨタだけ2020年度の見通し数字を出してきた。
コロナ禍の収束もまだまだ不透明な中、2020年度中は新型コロナの厳しい影響を受けることは間違いない。5000億円という利益を出すという発表は世間に安心感を与えるとともに、強気ではないかと見るむきもある。

連結販売前提台数

2020年度の販売前提台数

利益80%減という数字のベースになった2020年度の販売台数をみてみると、トヨタは全世界販売台数が22%程度落ちると予想した。販売台数22%減なら収益も22%程度の減少かと思うかもしれないが、自動車産業は工場の維持に掛かる費用や、従業員達の給料などの固定費が非常に大きい。
世界の自動車産業の中でも優良な経営と言われているトヨタですら新型コロナ禍でリーマンショックを超えるダメージを受ける。今後、存続すら危なくなる自動車メーカーも出てくるだろう。

トヨタの描くシナリオ

最大のポイントは、新型コロナウイルス感染拡大の収束とそれに伴う経済の回復が、「果たしてトヨタのシナリオどおりに進むのか」という点にあるが、これはかなり不確実性の高い予想と言わざるを得ない。
ただ、トヨタの予想をサポートするいくつかの予測があるのも確かだ。通常、経済の悪化は生産活動が悪化することで、賃金や雇用が悪化し、消費活動が悪化するという経路を辿る。しかし、新型コロナウイルスによる経済悪化は、緊急事態宣言による外出自粛を通じて賃金や雇用、消費活動の悪化から始まっている。つまり、生産活動の悪化が原因ではないため、外出自粛の解除により、消費活動が回復しやすいという考え方だ。
加えて、飲食・サービスなどに比べて、耐久消費財の回復は早いと見られている。耐久消費財の代表格であるクルマは、米国でネット販売が活況になっているように、回復が望めそうだ。
外出自粛が解除されれば、我慢していたクルマなどの耐久消費財は購入するが、我慢していた東京ディズニーランドには毎日は行かないし、毎日飲みにも行かないという現象だ。
だからと言って、トヨタのシナリオが当たっているのかは「神のみぞ知る」ということだろう。2020年9月中間期になれば、かなり信頼性の高い予想が出てくることになるはずだ。

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